半導体不足と米中貿易戦争(前編)半導体お勉強シリーズ⑥

半導体国際情勢
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先日、昨今続く半導体企業の業績悪化は「半導体の争奪戦」からの「在庫過多」、そして「在庫調整」によるものであると記事にさしてもらいましたが。

本日は、半導体不足のきっかけになったとされる「米中貿易戦争」について、その歴史を紐解いてみたいと思いますよ。

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始まりはオバマさん

米中貿易戦争の始まりはトランプさんの印象が強いですが、「米中対立」という視点で見ると、それはオバマさんの時代まで遡ります。

元々オバマさんの時代は、中国とアメリカの関係は良好でした。

オバマ政権第 1 期目に国務長官を務めたクリントン(Hillary Clinton)は、「中国の経済発展は米国に好都合」と評した
同じ時期に財務長官を務めたガイトナー(Timothy Geithner)は、対中貿易を推進し、積極的な金融政策を行った

前田達也さん
オバマ期における米国防省の対中認識の推移 より
https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/assets/pdf/ssg2017_06_04.pdf

この状況を一変させたのが中国が主導する「AIIB」です。

中国政府が期限とした3月31日までに、51の国と地域が創設メンバーとしての参加を表明。
先進国からの参加はないとみられていたが、3月12日に英国が手を挙げてから、その構図は一変。独仏伊など欧州勢に続いて豪州やロシア、ブラジル、韓国もなだれを打って参加を表明。日米が孤立する格好となった

東洋経済オンラインさん 2015/04/11 6:00
日米の孤立を演出、中国「AIIB」の高笑い より
https://toyokeizai.net/articles/-/65717

子分だと思っていたイギリスが、アメリカを裏切って参加を表明。

それを皮切りにその他の西欧先進国も後に続きました。

この出来事をきっかけに、オバマさんとその周辺は「中国ほっといたらもしかしてヤバい?」と気づき、融和路線から対立路線に変更したわけです。

ただしこの時はまだ、半導体市場に影響はありませんでした。

WSTSさんの半導体出荷額より山羊山が作成
https://www.jeita.or.jp/japanese/stat/wsts/index.html

貿易戦争へ展開したトランプさん

そんな米中対立を貿易戦争に加速させたのがトランプさんです。

2018年3月。
対中追加関税を発動。

2018年8月。
輸出管理改革法成立。

2019年5月と8月。
ファーウェイにに対する半導体輸出規制発表。

いずれも中国に対する貿易規制です。

「超限戦」や「ハイブリット戦争」なんて言葉を目にするようになりましたが。

ミサイルや戦車、戦闘機などの兵器を使用した武力戦闘だけでなく、貿易や経済での締め付けもひとつの戦争の形となっています。

規制品に半導体が含まれていたこともあり、2018年から半導体の出荷額も低下しました。

WSTSさんの半導体出荷額より山羊山が作成
https://www.jeita.or.jp/japanese/stat/wsts/index.html

しかし低迷は一時的

しかしながら、その後の2021年に半導体の出荷額は大きく跳ね上がっています。(2022年はWSTSさんの予測値)

WSTSさんの半導体出荷額より山羊山が作成
https://www.jeita.or.jp/japanese/stat/wsts/index.html

対中貿易規制は解除されたわけではありません。

規制は継続された中で、世界の半導体の出荷額が伸びているという不思議な状態です。

つまり、米中貿易戦争は、半導体市場において下降トレンドを形成するほどのインパクトはなかったと考える事ができるわけです。

在庫の積み上げ

米中貿易戦争から、2020年にはコロナパンデミックが発生しました。

ロックダウン等で工場生産能力や物流機能の低下が予想されたため、先回りして半導体を確保する動きが活発化しました。

その結果、半導体の出荷額は大きく跳ね上がってしまったわけです。

以下の半導体商社の在庫を見てみると、コロナ発生後の2019年後半に在庫状況が悪化したあと、2020年後半から改善しているのがわかります。

在庫回転数(Trunover)→現在の在庫数が1年に何巡するか
在庫日数(InventoryDays)→現状の在庫数で生産ラインを止めずに何日もつか

ガートナーさん
、の統計を引用しているEE Times Japanさん
、をさらに山羊山が引用
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2303/09/news052_3.html

「コロナ発生」→「半導体手に入りにくくなるかも」→「とにかく在庫確保!在庫確保!」

このように商社さん達の駆けずり回る姿が目に浮かびますね。

その節はご苦労様でした。

他にも半導体商社の在庫に関する記事があったので参考までに。

日本経済新聞さん
半導体商社、在庫17年以来の低水準 より
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC18BUX0Y1A510C2000000/
ニュースイッチさん
「電子部品」「半導体」、商社が在庫削減に動き出した より
https://newswitch.jp/p/35176

半導体を扱う商社の統計ということで、半導体業界全体の数値ではありませんが、その傾向は掴むことができます。

半導体出荷額は増加。

しかし、半導体の在庫も増加。

最終的な製品として流通せずに、倉庫やコンテナなどに在庫として積み上がっていた光景が想像できますね。

以上を踏まえまして。

マスコミ報道で派手に取り上げられていたこともあり、米中貿易戦争というキーワードは私達のマインドに強烈に印象付けられています。

しかしながら、半導体市場の停滞は一時的で、下降トレンドに陥ることなく、その後の出荷額はむしろ上昇しています。

出荷額の増加は「テレワーク化」や「コロナの巣ごもり需要」も一因とされていますが、その妥当性はスマホやパソコン、周辺機器などの出荷額と照らし合わせることで確認がとれるでしょう。

輸出規制に関しても「新興技術」「基盤的技術」「先端技術」の「輸出」に留まっていたり、ファーウェイ規制に関しても抜け道があったりと不完全なものでした。

軍事用に転用できる先端品や高性能なものでなければ、スマホやパソコン向けなどいわゆる「枯れた技術」を使った民生品は変わらずに取引ができていた、もしくは別のルート等でしっかり後対応していたということです。

それらを踏まえて考えると、「米中貿易戦争の前半戦」では、半導体不足のきっかけにはなったけど、持続的な影響は限定的だったと考える事ができるわけですね。

と、いうわけで。

よくよく見てみれば、思ったほどのインパクトはなかった米中貿易戦争の序盤戦ですが。

その後トランプさんからバイデンさんに引き継がれました。

さらにはロシアのウクライナ侵攻も重なり、世界はエネルギー危機・円安・物価高騰などに見舞われることになります。

次回はその辺の情勢が半導体にどう影響を与えているのかを米中貿易戦争を絡めて考えていけたらいいなあ、なーんて思っていますよ。

数字とか統計とかは苦手なのでそこらへん調べるのに苦労してますが。

半導体は世界の経済・国際情勢などと繋がっているので面白いですね。

そんなわけで以上、米中貿易戦争前半戦!!でした。

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