前回の記事で否定と二重否定と肯定のややこい話をしましたので、
本日はそのついでに、否定のain’tを取り上げようと思いますよ。
「~ではない」
と、何とな~くでしか捉えていなかったain’t。
ain’tを踏まえて適切な和訳を付けれれますですかねみなさま。
ぼくできない。
1.“Same old story, ain’t it, Armpit?” X-Ray had said.
(古い話と同じ、ではないか、アームピット?」 X-Rayは言った。
2.“The white boy sits around while the black boy does all the work. Ain’t that right, Caveman?”
「白人の少年がダラダラ座って、黒人の少年がすべての仕事をする間。正しくないか、ケイヴマン?」
3.“No, that’s not right,” Stanley replied.
「いや、それは正しくない」スタンレイは返した。
4.“No, it ain’t,” X-Ray agreed. “It ain’t right at all.”
「いや、そうではない」X-Rayは同意した。「それは全く正しくない」
例文は、ルイス・サッカーさんのHolesより
ain’tの意味
ジーニアス英和辞典 より
ain’t 非標準
(時におどけて)
am,is,are notの縮約形
ちょっとお行儀の悪い感じの「am not」「are not」「isn’t」だと考えとけばいいですかね。
付加疑問文とは
表現のためのロイヤル英文法
機能上の文の分類 より
(2)付加疑問
平叙文や命令文の後に付け加える簡単な疑問の形を付加疑問という。
口語特有の形で、ふつうは肯定文には否定の、否定文には肯定の付加疑問をつける。
「1」の文は、ain’tが付加疑問で用いられてるわけですね。
1.“Same old story, ain’t it, Armpit?” X-Ray had said.
(よくあること、ではないか?アームピット?」 X-Rayは言った。
Ain’t that right?
「2」の文は、ain’tが通常の疑問文で用いられています。
2.“The white boy sits around while the black boy does all the work. Ain’t that right, Caveman?”
「白人の少年がダラダラ座って、黒人の少年がすべての仕事をする間。正しくないか、ケイヴマン?」
平叙文にしてみると飲み込みやすいかもしれません。
Ain’t that right
↓
平叙文
That ain’t right
(それは正しくない)
↓
疑問文
Ain’t that right
それは正しくないですか?
(間違ってますか?)
ここでのain’tは、こんな感じになりますですかね。
2.“The white boy sits around while the black boy does all the work. Ain’t that right, Caveman?”
「黒人の少年がすべての仕事をする間、白人の少年がダラダラ座る。それは間違ってますか?ケイヴマン?」
これに対し、スタンレイは否定します。
3.“No, that’s not right,” Stanley replied.
「違う、それは正しくない」スタンレイは返した。
ここで少年たちは何を言い合っているのか、文の前後関係から把握しておきましょう。
文の前後関係
乾いた湖にひたすら穴を掘るという更生プログラム。
穴掘りが得意な黒人ゼロくんが、穴掘りを手伝うから読み書きを教えて欲しいとスタンレイに提案してきました。
穴掘りが得意になれないスタンレイは、その申し出を受けることにしました。
と、そんな前段階でございます。
ゼロくんが穴掘りを手伝う間、スタンレイは座って休憩をします。
休憩をするスタンレイを見て、他の少年たちは不満たらたら。
その不満をスタンレイにぶつけているわけですね。
No, that’s not right,
2.“The white boy sits around while the black boy does all the work. Ain’t that right, Caveman?”
「白人の少年がダラダラ座って、黒人の少年がすべての仕事をする間。間違ってるか、ケイヴマン?」
3.“No, that’s not right,” Stanley replied.
「いや、それは正しくない」スタンレイは返した。
白人の特権で黒人をこき使っているのではなく、
読み書きを教える代わりに、穴掘りを手伝ってもらう。
対等な立場における、公正な取引の結果である。
スタンレイはそう主張しているわけです。
問題は、次の「4」の文です。
4.“No, it ain’t,” X-Ray agreed. “It ain’t right at all.”
「いや、そうではない」X-Rayは同意した。「それは全く正しくない」
自分で「黒人をこき使う白人」と吹っかけておいて、自ら「自分の発言は正しくない」と即座に否定する。
この話の流れに、僕はどうにも理解に苦しんだわけなのでございます。
カンニング
文法上の意味は把握できていると思うので、プロの和訳にこのやり取りの読み解き方を教わりましょう。
4.“No, it ain’t,” X-Ray agreed. “It ain’t right at all.”
「いや、そうではない」X-Rayは同意した。「それは全く正しくない」
幸田敦子さん訳:穴 より
「そうとも、そんなんじゃ困るんだよ」X線はうなずいた。「ほんと、ひっでぇやり方だよな」
正直、幸田さんの和訳を見ても、あんまよくわかりませんね🥺
幸田さんの和訳を考察
素直に解釈した和訳と、英語の侘び寂びを効かせた幸田さんの和訳を比べてみます。
4.“No, it ain’t,” X-Ray agreed. “It ain’t right at all.”
「いや、そうではない」X-Rayは同意した。「それは全く正しくない」
4.“No, it ain’t,” X-Ray agreed. “It ain’t right at all.”
「そうとも、そんなんじゃ困るんだよ」X線はうなずいた。「ほんと、ひっでぇやり方だよな」
読み解く鍵は、
「It ain’t right at all(それはまったく正しくない」
が、
「It ain’t right at all(ほんと、ひっでぇやり方だよな」
という和訳になっていることだと僕は考えます。
おそらくこれは、意訳です。
意訳とは、前後の文脈から、想像力を働かせて大胆に和訳することだと僕は捉えています。
幸田さんと、シンクロシニティしてみましょう。
文脈、文脈。
ここで、この少年グループの人種について言及があった箇所を思い出しました。
人種の内訳は以下です。
※()内は別名
●黒人
X-Ray(X線)
Armpit(脇の下)
Zero
●白人
スタンレイ(ケイヴマン)
Squid
Zigzag
●ヒスパニック
Magnet
一番の古株で、リーダー的存在のX-Rayくん。
そんなX-Rayくんは黒人。
Zeroくんに穴掘りを手伝わせていることに苦言を呈しているのもX-Rayくん。
黒人は長い間、白人の奴隷政策の被害者でありました。
そんな歴史を踏まえつつ、X-Rayくんは、
「現代において、まさかそんな奴隷みたいなことさせないよな?ないよな、まさかね、そうだよな、うん」
そんな最高の皮肉を込めて、スタンレイに苦言を呈しているではないでしょうか。
以上を踏まえまして。
本日の例文を、オレオレ意訳してみます。
1.“Same old story, ain’t it, Armpit?” X-Ray had said.
(よくある話、だよな、アームピット?」 X-Rayは言った。
2.“The white boy sits around while the black boy does all the work. Ain’t that right, Caveman?”
「白人の少年がのんびり座ってる間、黒人の少年がすべての仕事をする。違うか、ケイヴマン?」
3.“No, that’s not right,” Stanley replied.
「違う、それは正しくない」スタンレイ(ケイヴマン)は返した。
4.“No, it ain’t,” X-Ray agreed. “It ain’t right at all.”
「そうだよな、違うよな」X-Rayは同意した。「まさか現代に、奴隷制度なんてものはないよな、昔の話だよな、そんな間違いだらけな話、まるであるわけないよなぁ!」
否定のain’tで、このような皮肉を表現してるのではないかな、と、僕は受け取ることにしましたよ!
みなさまはどうだったしょうか!
と、いうわけで。
日本語では「はい」と答えるところでも、英語では「いいえ」と答えたりします。
日本語
「違うよね?」
↓
「はい、違います」
「いいえ、間違ってないです」
英語
「違うよね?」
↓
「いいえ、違います」
「はい、間違ってないです」
それと、前回やった二重否定や、否定疑問が混ざって頭パーンなりました。
英語の疑問形について、ちょっと整理できた気がしましたよ。
引き続き頑張ります―。
◆本日の参考図書
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