台湾の大手半導体ファウンドリーのTSMC(台湾積体電路製造股份有限公司)。
2兆円という僕が現ナマで見たことないような多額の補助金を受けてアメリカに生産工場を建設するというニュースが話題になっておりますが。
そのTSMCが、日本は熊本の菊陽町にもやってくるということで、半導体界隈はイケイケムードな印象を受けます。
しかしながら一方で、当のTSMCや韓国のサムスン電子をはじめとする半導体大手の決算が「やべえ」というニュースも目に入ってきます。
そんな相反するニュースを前に、半導体業界は好調なのか?不調なのか?
私たちはよくわからなくなってしまうわけですねー。
そんなわけで今日は、その辺のところを調べてみましたよ。
何がヤバいのか
「やべえやべえどのくらいやべえかって言うと、マジやべえ」と慌ててばかりいても結局何がやべえのかわかりません。
なので、具体的に何がやべえのか確認してみたいと思います。
東洋経済オンライン
台湾半導体TSMC、「14年ぶり減収予想」の深刻度 より
半導体の受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は4月20日、2023年1~3月期の決算を発表した。同四半期の売上高は前年同期比3.6%増の5086億3000万台湾ドル(約2兆2387億円)、純利益は同2.1%増の2069億9000万台湾ドル(約9111億円)にとどまり、成長鈍化が鮮明になった。
https://toyokeizai.net/articles/-/668538
成長の鈍化がやべえそうです。
数パーセントばかしでも前年より成長できてるんならよいんじゃないかな?
と経済オンチの山羊山は思ってしまうのですが、もう少し詳しくみてみます。
2022年の1Qから3ヶ月ごとの売上高を、とりあえず前年同期比のパーセントで較べて見ます。
+35.5%(2022/1Q)
↓
+43.5%(2022/2Q)
↓
+47.9%(2022/3Q)
↓
+42.8%(2022/4Q)
↓
+3.6%(2023/1Q)
なるほど。
35~48%の伸びを見せていた業績が、突然一桁パーセントになったら、そりやまあビックリしまわね。
しかもTSMCの社長・魏哲家さんは、「次の決算はマイナスになるよ」とも言ってるわけです。
だが、それ以上に市場関係者の注目を集めたのは、同社の魏哲家総裁(社長に相当)が決算説明会で、2023年の通期売上高について「ドル建てで前年比1桁台前半から半ばの減収を見込んでいる」と明かしたことだ。
https://toyokeizai.net/articles/-/668538
サムスン電子も見てみよう
韓国の半導体大手、サムスン電子も軽く見てみましょう。
日本貿易振興機構(ジェトロ)
サムスン電子、第1四半期の営業利益は前年同期比95%減 より
売上高は前年同期比18%減の63兆7,500億ウォン(約6兆3,750億円、1ウォン=約0.1円)、営業利益は95%減の6,400億ウォンだった
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/05/deaa37b313015948.html
売上高の推移はこちら。
+18.9%(2022/1Q)
↓
+21.2%(2022/2Q)
↓
+ 3.7%(2022/3Q)
↓
- 7.9%(2022/4Q)
↓
ー18.0%(2023/1Q)
サムスン電子はTSMCよりも早くマイ転が始まっていますね。
売上高停滞の原因は
「何がやべえのか」がわかったので、今度はその原因をみてみましょう。
東洋経済オンライン
台湾半導体TSMC、「14年ぶり減収予想」の深刻度 より
「2022年10〜12月期に(TSMCの大口顧客で、自社工場を持たない)ファブレス半導体メーカーの在庫が想定を超えて膨らんだ。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/05/deaa37b313015948.html
TSMCに半導体の製造を依頼しているメーカーさん達の在庫が増えている状況だそうです。
在庫が十分にあれば当然、新たな注文はしません。
それでTSMCに注文が入らず、売上も上がらなかったわけです。
では、なぜ在庫が増えているのでしょうか。
供給が逼迫すると在庫を増やす
「必要な材料や部品が手に入らなくなるかもしれない」となると、企業はどのような対応をとるでしょうか。
ニュースイッチ
“半導体・物流混乱”供給リスク抑制へ、車部品メーカーが在庫積み増し より
愛知県の自動車部品メーカー各社が、在庫積み増しを強化している。日本特殊陶業は2019年3月期末に約4・5カ月分だった在庫水準を、足元では約6カ月分に増やした。デンソーやアイシンなど他のメーカーも、原材料や製品といった棚卸資産の増加を継続している。半導体不足や物流の混乱などによる供給リスクを防ぐ狙いだ。
https://newswitch.jp/p/34974
普段よりも注文する数を増やし、手元の在庫を増やそうとするのです。
世界中の生産者が自分とこの在庫を増やそうといつもより多く注文するわけですから、その結果、争奪戦が始まってしまうわけです。
これは、企業活動に限った話ではありません。
かつて私達も、コロナが大流行した時に、マスクと消毒用アルコールの争奪戦を身近で経験していますね。
店の棚は空っぽなのに、一部の家庭にはマスクが山積み。
これと同じように、各メーカーには半導体の在庫が積み上がり、一方で市場の供給は逼迫されていったのです。
供給逼迫は解消しつつある
争奪戦により逼迫していた半導体の供給ですが。
去年の段階ですでに事態は解消に向かっていました。
Bloomberg
半導体リードタイム、数年ぶりの大幅短縮-供給不足緩和の兆し より
半導体リードタイム(発注から納品までにかかる時間)は9月に4日間短くなり、数年ぶりの大幅な短縮となった。業界の供給不足が緩和されつつあることを示唆した。
サスケハナ・ファイナンシャル・グループの調査によると、9月のリードタイム平均は26.3週。前月は約27週だった。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-10-18/RJXK8KT1UM0W01
2022年の9月を境に、発注から納品までの期間が徐々に短縮されているそうです。
増えた在庫はいずれ元に戻る
必要な部品がないと、当然完成品は作れません。
そのため生産者は、生産がストップしないよう必死に在庫確保に動くことがわかりました。
しかしながら、供給不足の状態が解消されていくと、在庫を積み上げる必要はなくなります。
それでは、その積み上がった在庫はどうなるのでしょうか。
そうです。生産者達は増えすぎた在庫を減らそうと(元に戻そうと)するのです。
在庫増は売り上げの前倒し
在庫を増やすための受注は、トータルの売り上げを増やすわけではありません。
売り上げが前倒しされるだけです。
タバコの増税が決定されると、喫煙者達は増税される直前に駆け込みでタバコをまとめ買いします。
そして、増税後は、しばらくタバコの売り上げが落ちます。
家に何カートンも在庫があるので、買う必要がないからですね。
それと同じことが半導体界隈でも起きているわけです。
以上を踏まえまして。
以上のような状況を踏まえると、前年同期比で売り上げが下がったと言っても、半導体自体の需要が縮小した訳では無いことがわかります。
つまり、今期の決算が悪かったというより、前の決算が異常に良すぎたということです。
これは、「繁忙期」と「閑散期」で売り上げにムラがあっただけ、と言い換えることもできるわけです。
半導体に関しては、アメリカ・中国・日本・韓国を始め、生産能力を向上させるため、世界が国を挙げて兆円規模の支援を決定しています。
それは、将来的にそれだけのお金がこの業界で循環してゆくということです。
半導体という市場が、拡大してゆくことは間違いないでしょう。
と、いうわけで。
2023年の半導体市場はマイナス成長と言われていますが、2021年・2022年に成長が前倒しされただけで、市場全体が失速しているわけではありません。
そりやあまあ、企業個別の多少の浮き沈みも時にはあるでしょう。
しかしながら、世界が国をあげてお金を注ぎ込み、体制を整備しようとしている以上、やはり山羊山の結論としては、これからも成長が見込める業界という見通しは固いでしょうねってことです。
そんなわけで以上、半導体業界はヤバくない!!でした。
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