アメリカのアリゾナに5.5兆円をかけての製造工場建設を決め、さらに日本は熊本の菊陽町にこれまた1兆円以上資金を投入とニュースで話題になったTSMC(台湾積体電路製造)。
何となくすげぇんだろうなあという感じで眺めていましたが。
本日はその「すごいんだろうなぁ」を「超すげぇじゃん」に認識を改めるべく、TSMCを軸にして半導体業界のお勉強をしてみたいと思いますよ。
TSMCはファウンドリー
TSMCは半導体製造企業としては、「ファウンドリー」という形態をとっています。
ファウンドリーとは、「受託製造」とも呼ばれ、各企業からの依頼を受けて半導体を製造する、工場生産に特化した形態です。
この形態を詳しく理解するため、おおまかな半導体の製造工程をおさらいしてみましょう。
半導体製造工程の大枠は3つ
半導体の製造工程は、大きくわけると3つあります。
設計・前工程・後工程の3つです。
設計
文字通り半導体の設計をします。
机に座り、パソコンに向かってCADみたいな設計図をポチポチいじってるイメージですかね。
(よい子のみなさんは机じゃなくて椅子に座りましょうね)
自前の工場を持たないため、「ファブレス」と呼ばれたりもします。
前工程
ここからは物理的に半導体を製造していきます。
設計図を元に、ウエハー製造までが前工程になります。
ファウンドリーであるTSMCは、この工程を担当しています。
ウエハーってなに?な方は、こちらの記事がお役に立つかもしれません。
後工程
ファウンドリーから納品されたウエハーをカットして、私達が知っているムカデのようないわゆる「半導体」という形に組み立てていく工程です。
一見すると下請け企業のようですが
受託製造と聞くと、何やら下請けな感じがヴィンヴィンしてしまいますが。
僕がいたIT業界では、「設計=上流」のパワーが圧倒的に上でしたし。
「上流工程=仕事をくれる=お客様=神様(悪魔)」だからです。
TSMCも設計という上流工程の依頼主から「これ作って」と依頼を受けて作ります。
つまり、お客様からお仕事を頂いている身分なわけです。
しかしながら、TSMCに限っては、そのパワーバランスが逆になっています。
なぜでしょうか?
TSMCにしかできない仕事がある
半導体は、小さければ小さいほどよしとされています。
最終的に完成する製品が軽量・コンパクトになるし、消費電力も少なく抑えられ、結果的に高性能な製品になるからです。
半導体の小サイズ化は、半導体チップにどれだけ回路をギチギチに詰め込めるかがカギです
半導体界隈のニュースでは「5ナノ」「3ナノ」「2ナノ」といったキーワードが飛び交っていると思いますが、この「ナノ」の数字をいかに小さくするかでキープレイヤー達は凌ぎを削っているわけです。
半導体チップには画像のような回路がギチギチに詰め込まれていますが、ここでいう「ナノ」は、この回路の線幅を指しています。

半導体ウェハ・ICパターンの顕微鏡的観察と測定 より4Kデジタルマイクロスコープ「VHXシリーズ」でのICパターンの観察 より
左:従来のマイクロスコープ / 右:「VHXシリーズ」での高精細撮影(×3000)
https://www.keyence.co.jp/ss/products/microscope/vhx-casestudy/electronics/semiconductor-wafer.jsp
現在、実用レベルで量産されている最先端は「3ナノ」です。
原子を10個並べると1ナノになるそうですから、原子30個分?
聞いてるだけで胃が痛くなりますが。
僕は視力1.2とかですけど、原子を肉眼で見たことないです。
3ナノはサムスン電子も作れる
「3ナノ」を作れるのはTSMCだけではありません。
韓国の半導体企業である「サムスン電子」も作れます。
むしろTSMCより先に量産に成功しています。
しかしながら、サムスン電子は半導体ファウンドリーとして覇権を取ることはできず、TSMCの後塵を拝しています。
なぜでしょうか。
その原因は、「収率」にあります。
収率とは。
収率とは、端的に言うと「正常品の割合」です。
正常品とは、不良品の反対の意味になりますので、収率は高いほうが良いということになります。
5nmプロセスの収率において、サムスン電子が50%レベルにとどまっているのに対して、TSMCは80~90%以上の卓越した収率を見せているのだ。4nmプロセスの収率もサムスン電子が30~35%の低いレベルなのに対して、TSMCは70%レベルの収率を見せている。2022年に稼働予定の3nmプロセスの場合でも、サムスン電子の収率は非常に低い(20%以下?)と予想されている状況だ。
WowKoreaさん
<W寄稿>韓国サムスン電子の半導体収率(歩留まり)が暴落したのは、日本の輸出審査強化のせい?(1) よりhttps://www.wowkorea.jp/news/Korea/2022/0517/10347980.html
5ナノのTSMC収率が80~90%なのに対して、サムスン電子は50%という数字が挙げられています。
このデータの出どころが不明なので鵜呑みにはできませんが、この問題を考えるためには、半導体市場占有率がヒントになります。
日本経済新聞さん
台湾の半導体受託生産世界シェア、22年は66%に拡大へ より
【台北=龍元秀明】台湾の調査会社トレンドフォースは25日、台湾の半導体受託生産の世界シェア(売上高ベース)が2022年に66%に高まるとの予測をまとめた。21年から2ポイント拡大する。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM257LD0V20C22A4000000/
サムスン電子など韓国勢のシェアは前年比1ポイント減の17%、中芯国際集成電路製造(SMIC)など中国勢のシェアは1ポイント増の8%と予想する。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM257LD0V20C22A4000000/
2022年の市場占有率は台湾勢が64%、韓国勢が18%です。
2023年にはその差がさらに開くと予測されています。
先程も少しふれましたが、サムスン電子は2022年6月、TSMCより先に3ナノ極小半導体の量産に成功しています。
韓国の半導体大手サムスン電子は30日、回路線幅3ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体の量産を開始したと発表した。3ナノ製品の量産化は世界で初めてで、ライバルの台湾積体電路製造(TSMC)に先行した。
ロイターさん
韓国サムスン電子、3ナノ半導体の量産開始 世界初 より
https://jp.reuters.com/article/samsung-elec-chips-idJPKBN2OB05N
しかしながら、TSMCを中心とする台湾勢を追い上げるに至っていません。
それを裏付けるように、当のサムスン電子の社長さんが収率について言及しています。
サムスン電子のキョン·ギョンヒョン社長(DS部門長)が1日、DS部門の経営方針説明会を開き、ファウンドリ1位の台湾「TSMC」を取り上げ、“ファウンドリでTSMCの性能と収率についていこう”と役職員に競争力強化を注文した。
亜州日報さん
サムスン電子のキョン·ギョンヒョン社長、”TSMCの性能と収率に付いて行かなければならない” よりhttps://japan.ajunews.com/view/20230202115227537
誰でも不良品の少ないメーカーのものを選ぶと思いますが、これと同じことですね。
市場占有率を取れていないこと、また、組織トップのこの発言から、サムスン電子には収率という点において懸念すべき点があると考える事ができます。
以上を踏まえまして。
たくさんの半導体ウエハーを、高い品質で組み上げることができる、世界で唯一の半導体製造企業。
それがTSMCの強みだということですね。
本来であれば、弱い立場にあるいわゆる「下請け企業」ですが、発注する先が実質一箇所しかないわけですから、依頼する側も「じゃあ他でやってもらうわ」と強気に出れないわけです。
TSMCを中心とした半導体業界の特殊性が垣間見えますね。
TSMCの何が凄いのか。
その片鱗が見えた気がします。
と、いうわけで。
台湾を挟んで中国とアメリカの緊張は日々高まっておりますが。
アメリカが台湾側についている理由のひとつが、半導体=TSMCであることは間違いないでしょう。
最先端の半導体技術を持っていれば、世界の超大国アメリカも守らざるを得ないわけですから、半導体は経済のみならず、軍事・安全保障上の重要物資にもなっているわけです。
2023年以降も、半導体は要チェックでございますね。
そんなわけで以上、TSMC凄ぇえええええ!!でした。
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