韓国を代表する大企業、サムスン電子。
その総売上は、韓国企業の中において20年間1位の座を維持し続けています。
本日はそんな韓国経済の大根柱、サムスン電子を半導体視点で眺めてみようと思いますよ。
半導体の製造工程おさらい
サムスン電子をより深く知るために、半導体の製造工程をおさらいしておきましょう。
半導体の製造工程は、大きく分けると3つあります。
設計・前工程・後工程の3つです。
設計
文字通り半導体の設計をします。
パソコンに向かってCADみたいな設計ソフトをポチポチいじってるイメージですかね。
違ったらすみません。素人のイメージです。
自前の工場を持たないため、「ファブレス企業」なんて呼ばれたりもします。
前工程
ここからは物理的に半導体を製造していきます。
設計図を元に、ウエハー製造までが前工程になります。
ファウンドリーであるTSMCは、この工程を担当しています。
ウエハーについてはこちらの記事がお役に立つかもしれません。
後工程
ファウンドリーから納品されたウエハーをカットして、私達が知っているムカデのようないわゆる「半導体」という形に組み立てていく工程です。
サムスン電子はIDM
サムスン電子は、半導体製造企業として「IDM」という形態をとっています。
IDMとは、Integrated Device Manufacturer(直:統合型端末製造業者)の略で、半導体製造工程の始めっから終わりまで全て自社で賄う形態です。
そうです。設計・前工程・後工程ぜんぶできます。
前回記事にしたTSMCは、製造工程(前工程)に特化した「ファウンドリー」という形態でしたが、サムスン電子はファウンドリー部門も含めた、全工程対応の全部載せ半導体製造業者ということになります。
ちなみに半導体以外もやってる
サムスン電子は半導体以外も手広くやってます。
主な部門と売上に占める割合は以下です。
部門/売上(全体に占める割合)
家電/60.64兆ウォン(19.29%)
モバイル/120.81兆ウォン(38.44%)
半導体/98.46兆ウォン(31.33%)
ディスプレイ/34.38兆ウォン(10.94%)
主力はGalaxyを軸としたスマートフォン事業。
余談ですが、僕もスマートフォンをiphoneからGalaxyに変えたいなあなんて考えてます。
PCがWindowsなので、iphoneは何かと不便なんですよね。
いつになるかわかりませんが。貧しいので。
全部載せだから敵なしというわけでもない
何でもできるんだったら半導体業界でもさぞ無双状態なのでしょうと考えてしまいます。
が、意外とそういうわけでもないようです。
米調査会社のガートナーが1月17日、2022年の世界半導体売上高ランキング・トップ10の速報値を発表した。それによると、1位は韓国サムスン電子(656億ドル)
ガートナーは、このようなランキングにファウンドリを入れない。しかし、筆者は台湾積体電路製造(TSMC)がどのポジションにくるかを知りたい。そこで、1月12日に行われたTSMCの決算報告会の資料を調べてみると、2022年の売上高が758.8億ドルであることが分かった
ビジネスジャーナルさん
最先端を独走するTSMCが売上高で世界1位へ…驚異の営業利益率49.5%の理由 より
https://biz-journal.jp/2023/02/post_332312.html
2022年の半導体部門の総売上をファウンドリー企業も含めて比較すると、TSMCがサムスン電子を抑えて世界一になっています。
良くも悪くも強気な戦略
サムスン電子は「人為的な減産はしない」という強気な基本方針に沿って経営されています。
サムスン電子は2022年10月5日(現地時間)、米シリコンバレーで次世代半導体と新技術を公開するイベント「Samsung Tech Day 2022」を開催した。この場で同社メモリー事業部副社長のハン・ジンマン氏は、「現時点で(メモリー半導体の減産に関して)議論したことはない」「人為的な減産はしない」「ただし、市場に深刻な供給不足または供給過剰が起こらないよう努力している」と説明した。
日経TECHさん
深刻化するメモリー需要の低迷、それでもサムスン電子が減産しない理由 よりhttps://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00070/
「人為的な減産」とは、「低迷した売上もいずれ元に戻る。積み上がった在庫もそのタイミングで解消していく。だから減産はしない」ということなのでしょう。
減産回避で一人勝ちを狙うサムスン電子
実際に、2008年のリーマン不況時も他社が「やべぇw」と減産する中、一人踏みとどまり見事に乗り切っています。
2月の国内の半導体生産は昨年同月に比べて41.8%減り、2001年7月(対前年同月比-42.3%)、2008年12月(-47.2%)と減少幅がほぼ同じだった。
ハンギョレさん
半導体業況低迷の中、電撃的に「減産」…業界トップのサムスン電子の選択は より
https://news.yahoo.co.jp/articles/e0685a8db9784eb0991372702c582763d7b19084
過去の景気停滞時には、韓国全体の半導体生産が前年同月比で40%減少する中でも、サムスン電子は減産をしませんでした。
狙いは、景気回復後の「一人勝ち」です。
韓国メディアや証券業界は、半導体業界において好況と不況を繰り返す「シリコンサイクル」の周期がどんどん短くなっていることから、サムスン電子は不況サイクルから好況サイクルに移ったらすぐ利益を出せるように備える戦略だと分析している。
日経TECHさん
深刻化するメモリー需要の低迷、それでもサムスン電子が減産しない理由 よりhttps://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00070/
半導体生産も含め、完成品が出来上がるまではそれなりの時間が必要です。
「景気が良くなってきた―わーい」となってから動き始めていては遅いのです。
「景気はいずれ持ち直す」という目論見が当たり、在庫が潤沢にある当時のサムスン電子は、初動で劣るライバル達を置き去りに、大きく飛躍したのです。
強気な戦略は諸刃の剣
しかしながら、減産しない強気な経営方針は諸刃の剣です。
株や為替で言へば、「損切りしない塩漬け戦略」のようなものだからです。
景気が良くなれば逆転ホームランになりますが、景気が長期にわたり持ち直さなかった場合はどうなってしまうでしょうか。
韓国の「サムスン電子」は7日、暫定の連結決算を発表し、今年1月から3月までの営業利益が前の年の同じ時期に比べて95.8%減の6000億ウォン、日本円でおよそ600億円になるとの見通しを明らかにしました。
TBS NEWS DIGさん
サムスン電子の営業益96%減 半導体メモリー減産へ より
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/423234?display=1
前年同月比の営業利益が「98.5%減」だそうです。
そしてついに、今年になって頑なに誇示していた「減産しねえ」という方針を、一時的とは言え変更しています。
サムスン電子は強気でチャレンジング
また、サムスン電子は最先端技術である「2ナノ」テクノロジーでもチャレンジングな姿勢を見せています。
現状、安定して量産されている最先端半導体はTSMCの「3ナノ」です。
TSMCは「FINNET」という技術でこの3ナノ半導体を安定して量産しています。
しかしながら、実績があり安定した技術である反面、微細化の限界に近づいていると言われています。
そこに目をつけたのがサムスン電子です。
新たな「GAA」という半導体技術を採用することにしました。
GAAも諸刃の剣
何やら夢と希望の詰まってそうなGAAという技術ですが、新しい技術のため、まだまだ安定感がありません。
そして、現在3nm GAAプロセスで得られた歩留まり率は、驚くべき事に10~20%とのことだ。これは、製造された中で廃棄される物が9割近くにも上ると言うことで、Samsungの苦労している現状が窺い知れるだろう。
TEXALさん
SamsungのGAAベースの3nmプロセスは4nmよりも歩留まりが悪く受注が伸び悩む可能性 より
https://texal.jp/2022/04/19/samsung-3nm-gaa-worse-yields-than-4nm/
なんと不良品率が80%~90%だそうな。
前回の記事でも少し触れましたが、サムスン電子の収率(正常品率)の低さは、この辺も関係してるのかもしんないですね。
このGAAという技術については、また別に詳しくお勉強しようと思ってますよ(まとめようと思ったけど脳味噌が足りなくて理解できんかった)
以上を踏まえまして。
半導体においても設計から前工程、後工程と全ての工程を網羅し、かつ家電・スマホ・ディスプレイと取り扱い製品も多岐に渡るモンスター企業。
手広くやっているがゆえに、経営にもムラがあるんかなあという印象を受けました。
ただ、景気停滞の場面でも減産しなかったり、GAAなど新しい技術を積極的に採用する姿勢は、裏を返せばチャレンジングで野心のあるギラギラした企業とも言えるでしょう。
冒険はしないけど安定感抜群という印象のTSMCとの対比が非常に興味深いですね。
と、いうわけで。
果敢に挑戦してゆくチャレンジャーは、はたから見る分には面白いです。
しかしながら、株主さんや従業員さんなど中の人にしてみれば、少しスリリングだったりするのでしょうかね。
2ナノ半導体開発でTSMCと激しいバトルが繰り広げられておりますが。
じゃじゃ馬のGAAを飼いならしてサムスン電子が覇権を奪い返すのか。
今後の展開がちょっと楽しみですね。
そんなわけで以上、対抗のサムスン電子!!でした。

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